プレート抜去術は口腔外科の手術で日常的に行われている手術で、若手の口腔外科医が行うケースが散在されるが、比較的基本の手術であるためか、書籍などで術式について詳しく記載していない。
若手こそ術式を学ぶべきであり、そこに矛盾が見られる。
従って今回はプレート抜去術の術式について説明する。
大まかな流れとしては、
- 切開
- 剥離
- スクリュー・プレートの抜去
- 縫合
となる。
下顎プレート抜去術
下顎では開口器を使用する。
切開
切開線の設定
切開線は以前の手術で切開した後の瘢痕をなぞるようにして設定することで、瘢痕組織を最小限に抑える。 ただ瘢痕上だと血流が悪くなるため、わざと少しずらすこともあるらしい。
ただし、プレートを除去する上で以前の切開線があまりにも不適切であれば、適宜新たな切開線を加える。
※不適切な切開線とは:例えば切開線があまりにも頬側に寄っていると、縫合時の歯列(非剥離)側フラップが薄くなって縫合しづらくなり、十分な組織を針で拾えず、術後に創部が離開したり感染しやすくなる。
切開線の長さはプレート抜去をする上で必要な長さを考えて設定する。
切開線の長さが短いと十分に剥離できないので、プレートを明示することが困難になって沼る。
切開線が長いと、不要な侵襲が加わり、術後の患者本人の肉体的負担が増大するだけでなく、感染リスクも上昇する。
予めレントゲン写真やCTを確認し、切開する前にプレートの位置を触診して、イメージをすることが大事である。
また、麻酔をする時に骨膜までの距離を測っておくと切開がイメージ通りに進められる。
切開
切開はプレート直上をめがけて切開する方法と、プレートより少し頭頂(上縁)側を目掛けて切開する方法がある。
プレート直上を目指して切開する方が安全だが、粘膜骨膜弁を綺麗に剥離するのが困難になる。
創部は以前手術した所で瘢痕だらけでどうせ綺麗に剥離できないけれど、僕はやっぱりプレート上縁を目掛けて切開し、プレート(下顎縁下)方向に向けて剥離を進めた方がいいと思う。
切開は2回に分けて行う。
1回目は下顎縁下方向に刃先を向けて軽く表層を切開し、2回目の切開で下顎骨に対して垂直になるように刃先を向け直して切開を加える。
こうすることで、歯列(非剥離)側のフラップに厚みを持たせる事ができ、縫合しやすくなる。
15番メス?電気メス?
15番メスは切開跡が綺麗になるが、刃先がすぐダメになってしまうし、止血効果がない。
電気メスは切開でフラップを綺麗に分離でき(みかんを剥いてるようなイメージ)止血効果も得られるので視野が確保しやすいが、周囲の組織にダメージを与えてしまう。
それぞれメリットとデメリットがあるので、適宜使い分けることが重要。
電気メスで周囲の組織にダメージを与えても術後に大きな影響はないようだが、やっぱり僕は
電気メスによる周囲組織の挫滅は良くないと思うので、最初の粘膜の切開は必ず15番メスで切開し、深部の切開も基本は15番メスを使うが、刃先がダメになったり、15番メスではきれない時、出血のせいで視野が確保できない時は電気メスを使うようにしている。
剥離
粘膜骨膜弁の剥離
メスで切開して骨膜まで明示できたら、骨膜剥離子を用いてプレートを目掛け、下顎縁下方向に向けて剥離を進めていく。骨膜剥離子はモルトやアッシュ5番など、その時に使いやすい骨膜剥離子を使用する。
プレートの明示
プレートの上縁が認められたら、プレートの全貌を確認するために、プレートの近心端・遠心端方向へ剥離を進めて明示させる。
剥離が進まない場合は切開の範囲が不足しているため、切開を広げてプレートを丸見えにする。じゃないと沼る。
剥離する上でプレート近辺に不要な組織があれば、電気メスを用いて除去し、プレートを綺麗に露出させる。
プレートの全貌が見えるようになったら、それより下縁へ剥離する際は、先が鈍である粘膜剥離子に持ち替えて、下顎縁下へ滑っても傷つけないようにする。
スクリュー・プレートの除去
ストレートやコントラのドライバーでスクリューを除去する。
プレートを除去する時は咬ませた状態にした方がスクリューが取れやすい。
まずは最もスクリューが取りやすい所から抜去していく。
ネジに対して平行になるようにスクリューをネジ穴に入れて、反時計回りでネジを緩めていく(インプラントでもなんでも時計回りだとネジが締まり、反時計回りでネジが緩む)。
スクリューがうまくネジ穴にかからない場合はスクリューを挿入する角度に問題があるので、色々な方向からスクリューをかけてみる。
特にコントラアングルはその傾向が強い。
剥離を綺麗にすることで、ネジを抜去する際にネジを落としてしまっても剥離範囲が守られていれば変な所に迷入しない。
スクリューが取れたらケリー鉗子でスクリューを把持し、シャーレに置く。
縫合
縫合の基本前提
丸針をフラップに対して垂直に穿刺してなるべく深く骨膜下まで拾うことで、離開しづらく治りが良い創部になる。縫合は単純縫合で十分。
特に中央部分は離開しやすい上に離開させたくないので、しっかり骨膜下まで拾う事が大事。
縫う順番
まずは創部の中央付近をメルクマークとして縫って、頬側の遊離フラップと歯列側の非遊離フラップの大まかな位置決めを行う。その後に、遠心端または近心端に向けて縫っていくことで、dog-ears(縫い代のずれによる両端の盛り上がり)を防ぐ。
上顎プレート抜去術
基本的には下顎と変わらない。
上顎ではアングルワイダーを使用する。
切開
Le Fortの切開線に準じて切開を行う。ただし、上唇小帯相当の正中部は切開しなくても十分に術式を遂行できることが多い。
これも理想は2段階の切開で行う。
まずは15番メスで上顎骨に対して頭頂側へ斜めに切開を加え、その後に電メスで上顎骨に対して垂直に切開を加える
剥離
剥離を進め、まずは梨状口のプレート下縁を明示する。
次に、梨状口側縁を上方まで伸びているプレート部分の剥離を進める。
あまり上方まで剥離すると眼窩下神経があるので剥離は最低限に留める。
側頭骨寄りのプレートは梨状口のプレートを抜去してから進めることが多い。
スクリュー・プレートの抜去
ストレートのドライバーでスクリューを抜去する。
特に梨状口側縁まで上方に伸展しているスクリューを抜去するため、細長い金鉤でフラップを上方に牽引する。
スクリューが取れたらケリー鉗子でスクリューを把持し、シャーレに置く。
歯列側のフラップを巻き込まないために、粘膜剥離子で抑えると良い。
縫合
人によっては連続縫合を選択している。
骨切り後で鼻の形態の変化を気にしている患者に対しては両側の鼻翼基部に糸をかけて鼻翼部を締め直す(その際は左右の切開線を繋げて剥離する必要があるか)