口腔は消化管の入口として一つの器官であり、全身の一臓器としての役割を持つ。
口腔ケアとは口腔ケア用品を用いて口腔内を清潔にすることで、口腔疾患だけでなく、全身疾患までの予防を目的としている。
口腔ケアを行うことで口腔内の細菌や汚染物質を除去できる。
歯周病菌は糖尿病や心内膜炎、敗血症、動脈硬化とも関連があるとされている。
また周術期においてはこれに限らず、口腔内の衛生状態を改善することで、口腔内細菌を原因とするSSI、外科侵襲や薬剤投与による免疫力低下に伴う病巣感染、誤嚥性肺炎、発熱、栄養障害、在院日数の削減、投薬や検査などの削減による医療コストの削減などに寄与できる。
全ての入院・外来患者に対して口腔ケアを行うことが理想であるが、その中でも特に口腔ケアを行う意義が強い疾患に限っては、別途で保険点数を請求することができるようになっている。
特に口腔ケアを行うべき疾患は
となっている。
頭頸部・消化管・呼吸器領域等の悪性腫瘍の手術
頭頸部悪性腫瘍の手術では創部が口腔内に近接しているため、SSIのリスクが高い。また、術後の摂食嚥下障害に合併する誤嚥性肺炎のリスクもみられる。化学療法、放射線療法を行うとほぼ全例で口腔粘膜炎が生じ、免疫低下による易感染性も認める。
胃より上部の消化管に生じた悪性腫瘍でもSSIのリスクは上がる。
口腔内細菌が誤嚥で呼吸器領域に流れ込む観点から呼吸器系の悪性腫瘍にも有効である。
頭頸部・上部消化管・呼吸器領域以外の悪性腫瘍疾患においても、周術期は投薬や侵襲に伴う免疫低下状態になり、口腔ケアを行うことで歯周病といった慢性炎症を抑制し、回復を早めて合併症が減少すると言われている。
心臓血管外科手術
なんといってもIE(感染性心内膜炎)。
免疫低下時に歯周疾患から口腔内細菌が血流に入り、心臓に到達してIEになる可能性がある。
人工股関節置換術等の整形外科手術
人工関節置換術が特に大事。
変形性関節症などの関節疾患に対し、損傷した関節を除去して金属などの人工関節に置換する手術のことで、95%以上が股関節と膝関節であり、国内で年間15万件以上行われている一般的な手術である。
よくTKA、THAと耳にするが、それぞれ人工膝関節置換術と人工股関節置換術のこと。
人工関節は通常の関節よりも感染(SSI 人工関節周囲に起きるものを特にPJIと呼ぶ)しやすく、感染すると再手術と長期間の抗菌薬療法が必要になり、なんとしても予防したい。
なので術中も宇宙服のような手術着を着用するなど周術期にとにかく感染に留意するが、術後長期経過後でも感染するため、術後も感染に注視しなければならない。
その点において、口腔衛生状態が悪いとリスクは小さいものの血行性に細菌が散布されて人工関節が感染する可能性があると言われており、中程度のエビデンスもあることから、周術期の口腔ケアが重要視されている。
臓器移植手術
臓器移植手術はとにかく侵襲が大きく、術前から多量の免疫抑制剤を使用する。
従って、口腔粘膜炎だけでなく、免疫不全に伴う口腔疾患の重症化や全身感染症のリスクが高い。
手術直後は生命予後に関わるため、そんな時にP急発や骨髄炎、蜂窩織炎なんて起こしたくないので、予め感染源となる疾患は処置を行い、粘膜炎や口腔疾患由来の重症感染症を予防する。
造血幹細胞移植術
悪性リンパ腫や多発性骨髄腫といった、化学療法だけでは難しい血液癌や免疫不全症に対し、根治目的で行う治療のこと。
予め自分またはドナーから造血幹細胞を採取し、移植術の前に化学療法や放射線療法で腫瘍細胞と免疫細胞を抑制させ、採取した造血幹細胞を点滴で投与する事で、正常な造血機能を回復することを期待する。
造血幹細胞を採取する方法は
骨髄移植
腸骨の骨髄液から採取する方法
末梢血幹細胞移植
通常は造血幹細胞は血液中にいないので、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を投与して造血幹細胞を末梢に流れ出し、血球成分分離装置を用いて造血幹細胞を採取する方法
臍帯血移植
妊婦の分娩後に造血幹細胞が豊富に含まれている臍帯から造血幹細胞を採取する方法
がある。
やはり免疫抑制剤を多量に使うため、口腔粘膜炎や慢性炎症の重症化などのリスクがあり、口腔ケアが重要である。
脳卒中に対する手術
患者は片麻痺など生じており、摂食嚥下障害に伴う誤嚥性肺炎のリスクが高い。