歯科医師業を行うとアナフィラキシーに遭遇する場面はいつ遭遇してもおかしくない。
アレルギーとアナフィラキシーの違い
1言で言うと、アレルギーのうち重症のものをアナフィラキシーと呼んでいる。
人間には体内に異物が侵入すると、免疫力で排除する機能を持っている。これのお陰で身の回りに病原菌が溢れる日常の環境下でも生存できている。
これは諸刃の剣みたいな面もあって、実際は体に無害なはずの物質に対して体が勘違いし、免疫力が過剰に反応してしまう事がある。それがアレルギー反応。
例えば花粉症の人は、目や鼻から侵入する花粉に対して反応を起こし、涙や鼻水で排出を試みている。
この免疫反応が全身で生じて多臓器に影響を与えると、特にアナフィラキシーという表現になる。
アナフィラキシーとの遭遇
歯科医師が歯科医業を行う上でアナフィラキシーに遭遇する場面としては、
局所麻酔・抗生物質・鎮痛薬 を契機とする事が殆どであろう。
局所麻酔
歯科医師が麻酔薬として使用するカートリッジは
オーラ注(リドカイン) シタネスト(プロピトカイン=プリロカイン)
の2種類である。
Lidocaine Prilocaine いずれもアミド型の麻酔薬。
アミド型の麻酔薬は麻酔薬自体がアレルギー反応の抗原となることは少なく、防腐剤として添加されているメチルパラベンがアナフィラキシーを起こす殆どの原因となっている。
抗生物質
歯科医師が処方する抗生物質としては口腔内細菌によく効くペニシリン系や毒性が比較的少ないセフェム系を処方する事が多いが、ペニシリン系とセフェム系はアナフィラキシー反応が他のAbxと比べて起こしやすいと言われている。
※ペニシリン系とセフェム系はβラクタム冠を有しており、細胞壁の合成阻害で殺菌的(分裂を阻害する)に作用するため、細胞壁を持たない人類には毒性が比較的少ない。
鎮痛薬
NSAIDsやカロナールいずれもIgEを介した免疫学的なアナフィラキシーのリスクがある。
ただそれとは別で、NSAIDs不耐症という疾患も注意が必要。
NSAIDs不耐症はIgEを介した免疫学的反応とは異なる。
NSAIDs不耐症はcox-2活性が低下した薬理学的変調体質の患者に対してcox-1阻害薬を使用することでPG等サイトカインが変値になり発疹や血管浮腫といった症状が生じる疾患であり、厳密な意味ではアナフィラキシーと異なるが、対応はアナフィラキシーと変わらない。
いずれも使用後数分〜半日以内の全身発疹や血管浮腫・呼吸困難などを呈する。
その他
一般開業医だと上記が多いと思うが、口腔外科の範囲だと造影剤や血液製剤など多岐に渡る。
実際のところ、麻酔や鎮痛薬よりも造影剤や血液製剤、抗生物質の方が頻度が高い。
アナフィラキシーの定義
簡単に噛み砕くと
皮膚の発疹・紅斑や粘膜の腫脹などが急速(数分〜数時間)に発症し、
1. 呼吸器症状:呼吸困難・喘鳴など
2. 循環器症状:血圧低下、臓器不全(失禁、失神など)
3. その他:消化器症状(腹痛、嘔吐など)
上記1-3のうち少なくとも1つを伴うものがアナフィラキシー
ただし、アナフィラキシーの既往がある人が原因抗原に感作して血圧低下や喉頭症状などあれば、皮膚症状がなくてもアナフィラキシーとして対応しても良い。
アナフィラキシーの症状
皮膚や粘膜症状が90%で最もよく見られる。
次に気道症状で70%程度。
程度に幅が広いが、致死的なアナフィラキシーで呼吸停止や心停止になるまでの時間は、薬なら5分で食物だと30分程度と謳われている。
感作されてから数分〜数時間後に症状が出ることが多いが、症状が1度改善した後に症状が再燃
する事がある(=2相性反応)。
アナフィラキシーの対応
体位
基本的には仰臥位だが、呼吸困難があれば座位、意識消失があれば回復体位にする。
急に座位や立位にすると心室や大静脈の循環血液が空になって循環を増悪させ、薬効が著しく低下する。従って、急に体位を変えることは避ける。
下肢を挙上させて血圧を上げる(エビデンスあり)。
薬物治療
まずは大腿中央の前外側にエピペン(アドレナリン)を筋肉注射する。皮下中だと吸収が遅くなるので注意。
大人であれば0.5mgで、子供であれば0.01mg/kgの量をIMする。
アドレナリンは注射後10分で血中濃度が最高値になり、40分で半減するため、5〜15分待っても症状が改善しない場合は繰り返し投与を行う。
アナフィラキシーに対するアドレナリン投与では禁忌がないため、躊躇せず投与する。
繰り返しアドレナリンをIMしても症状が改善しない場合はDIVでアドレナリンを5-15μg/min の流速で持続注射するが、ACS(急性冠症候群)のリスクもあるため気を付ける。症状が改善したらAdを急に止めるのではなく漸減していく。
ヒスタミン薬(ポララミン5mg or ガスター20mg +NS 50mg)は皮疹や紅斑・鼻漏には効果を示すも、呼吸器症状や循環器症状には意味を持たないため救命効果を持たない。
ステロイド薬は抗炎症作用を持つも、作用するまでに数時間を要するため緊急の救命効果を持たない。
従って、目の前でアナフィラキシーを起こしたら薬物治療として大腿部にエピペンを投与する事が重要。
エピペンの使用方法
青色のキャップを外す。
大体の前外側にオレンジ色の先端をカチッというまで5秒間押し込む。
先端のオレンジ色の先端カバーが伸びていたら投与できている印。
救急車を呼ぶ。
症状への対応
エピペン投与後は症状を見ながら、それに準じた対応を行う。
まずはMOI(モニター、酸素投与、ルート確保)しよう。
呼吸器症状
呼吸器症状には酸素マスクによる酸素投与、挿管を考慮する。
循環器症状
血圧が低下していたらルートから等張晶質液1~2Lを1時間かけてボーラス投与して昇圧する。
症状が改善しても
エピペンを投与したりしてアナフィラキシーの症状が改善しても、体に残存している抗原によって症状が48時間後までに再燃する事がある(2相性アナフィラキシー)。
アドレナリン投与が複数回行った症例やアドレナリン初期投与が遅れた症例でよく散見される。
ステロイドを予防的に投与する考えがあるが、エビデンスはなく推奨されていないので、予防は難しい。
症状が改善して帰宅となった患者には皮膚症状が再燃した場合用の抗ヒスタミン薬を処方した上で、症状が再燃する可能性について説明し、症状が再度出た際は再度受診するように伝える必要がある。