骨切り術における術式設定の考え方

口腔外科が行う代表的な全身麻酔手術の一つに骨切り術があります。

 

簡単に言うと、上下顎が日本人の平均より過形成・劣形成やバランスの不均衡による咬合不全を解消するために上下顎を人工的に骨折させ、理想的な位置に移動させる手術です。

 

言葉で言うのは簡単ですが、治療方針を立案する上でone-jaw or two-jaw、何mm移動させるか、pns挙上、カントの修正など考える事は多いため、何を考えながら術式選択するかを説明していきます。

 

one-jaw or two-jaw


one-jawのメリットとしては、片顎しか骨切りしないため、手術の侵襲を少なくできる。

手術には偶発症・合併症は付き物であり、切開線の跡や歯肉退縮、知覚鈍麻、鼻の変形などなどいくらでも挙げられるため、それらのリスクを減らし、術後の辛さも軽減できる。

デメリットとして、同じ症例に対してtwo-jawではなくone-jawを選択した場合はその分移動量が大きくなり、付着筋の影響で後戻りしやすくなる。

Two-jawだと各々の移動量を抑えられるため術後の後戻りも少なく、顎関節の負担も減り、上下顎とも理想の位置に移動できるため、術後の機能・審美面ではbetterな結果となるが、侵襲の大きさや偶発症等のリスクが問題となる。

 

移動量

移動量はセファロのトレースやプロフィログラムを用いて左右それぞれの移動量を計算する。

上顎を前方移動量においては4mm〜5mmが限界とされている。

6mmを超えると後戻りが大きくなり、ANS移動に伴う鼻の変形(鼻翼の広がり、鼻孔の目立ち)も目立つため、5mmが限界となる。

 

6mm以上前方に移動する場合は骨延長術が望ましい。

鼻の変形は変わらず生じるが、骨切り術と比較して骨延長術は後戻りのリスクが抑えられ、術後の安定性が増す。

創外型のRED systemと創内型のチューリッヒが有名。

REDは延長中に装置がみえるし、頭部にスクリューを打つため周囲が禿げるが、移動量に制限がないし、骨切りのラインにも影響せず、歯槽部にダメージがないので歯胚が残る小児にも使える。

チューリッヒだと装置は外からみられないが、上顎骨切りのデザインや移動量に制限が出る。

とはいえ、手術が2回必要になるし、延長方向の調整が非常に難しい上、患者の負担も大きいため標準治療とはいえない。

 

下顎の後方移動量の限界目安は10mm。

これ以上下げると付着筋や周囲組織の力による後戻りのリスクや軌道閉塞のリスクが上がる。また、近位骨片と遠位骨片間のgapが大きく、下歯槽神経が大きく露出して電撃痛が生じることもある。

 

pnsの挙上

移動量が大きい場合にはpnsを挙上することがある。

口蓋骨の後方部を削合してpnを挙上すると、下顎骨を時計回りに回転できる。

オトガイ部が後方に移動するため日本人が気にするオトガイを引っ込めることができるだけでなく、下顎角が上方に行くことで、後戻りに強く関与する内側翼突筋が弛緩するため後戻りしにくくなる。

ただし、口蓋骨後方は下行口蓋動脈といった重要な動脈があり、出血が激しくなるためpnsの挙上は4mmが限界となる。

 

正中偏位

上下顎が顔貌の正中より偏位している場合は骨切りして偏位を修正する。

顔貌の正中は正面顔貌写真やP-Aレントゲン画像、患者さんの希望などを参考にするが、最も参考にするのは顔貌の軟組織の写真。

骨切り術は名目上は機能改善を目的とした手術だが、実際は審美改善の側面も強く、顔貌正中はDrが正面からの顔貌写真で

瞳孔間線の垂直2当分線や鼻背を参考にして、正中線からのずれを計測する。

既往歴が特にない人であれば正中と上下顎のずれは比較的計測しやすいが、先天疾患を有する人に対しては悩む事も多い。

 

カント修正

咬合平面が顔貌に対してずれていないかを、舌圧子を噛んで持った顔貌正面写真で確認する。

舌圧子をどこで噛んでもらうかに正解はなく、可能な範囲で臼歯部で噛んでもらうことが望ましいが、

どこで舌圧子を噛んだ写真ではカントが何mmずれていると考えた、と考えることが重要。

 

何事においても、考えた理由を述べることが大事。