気管切開、気管カニューレについて

口腔外科医でも気管切開・気管カニューレ留置はよくみかける術式です。

ちなみに耳鼻科だと症例数nが多い分更に慣れてるらしく、初診で呼吸困難を訴える患者さんが来た時点で気管切開の心構えになるらしい。

 

口腔外科で気管切開を行う機会といえば口腔癌に対する外科手術後の気道管理目的がほとんどでは。

頸部郭清術なんて頸部の疑わしき領域を根こそぎ取り除いてくるんだから、炎症反応により気道が閉塞するリスクが当然上がるため、予防的に気管切開を行う必要がある。

 

 

気管切開術の術式

f:id:nashuto:20230109143529p:image

手術室で患者さんを仰臥位にし、肩枕を入れて頸部を伸長させておく。そうしないと皮膚から気管までが深くなってしまう。

 

輪状軟骨の下縁から下に約1cm下の位置で、胸鎖乳突筋の内側縁を結ぶ横切開(3〜5cm)を行う。

横切開の方が審美的に良いが、縦切開の方が視野が広くなる。

深さとしては、広頚筋までメスで切開する。

 

浅頸筋膜を露出させたら、ペアン鉗子で筋層を鈍的に剥離、切断し、筋鉤で気管を露出させる。

筋鉤は甲状腺筋鉤という、先の柄が小さい筋鉤を左右方向に引っ掛け、上方に持ち上げて膨らませるイメージで引っ張る。

 

甲状腺が露出されたら、頭側に持ち上げるか、狭部で切開して左右に分ける。

頭側に筋鉤で持ち上げる場合は、術野に筋鉤が3つ必要となる。

筋鉤を深層まで引っ掛け、甲状腺を吊り上げるイメージで引っ張らないと、術野が確保できず手技が難儀になる。

 

更にペアン鉗子で先に進めると、気管軟骨が明示される。

第二、三気管軟骨に横切開を加え、両端に縦切開を追加した逆U字型でフラップを形成する。

気管軟骨のフラップに4-0ナイロン糸をかけ、皮膚と縫い合わせる。

 

術中に留意すること

常に正中を意識しながら切離、剥離する。

甲状腺動静脈などに注意する。

 

ポイント

Jackson三角

上辺は甲状軟骨の下縁、頂点は胸骨切痕の上端、二辺は胸鎖乳突筋の内縁からなる逆三角形のこと。
この領域内であれば比較的安全に手技が運べると考えられている、古典的なシェーマ。

 

 

偶発症

皮下気腫・縦隔気腫

皮下の軟部組織を剥離しているため、低圧である皮下に空気が流入し、皮下気腫や縦隔気腫が生じる。

基本的には経過観察。

 

出血

甲状腺などを損傷すると出血する。

 

 

カニューレ挿入

カニューレの内径は、できれば太いものの方がいい。

太い方が呼吸仕事量を増やせるから。

しかし、あまりにも不適合なカニューレを挿入すると、軟部組織へのカニューレ誤挿入による気道閉塞や気胸、気管内肉芽形成による呼吸苦などのリスクが高くなるため、最適なサイズを選択する必要がある。

肉芽が形成したらステロイドの吸引や抗生剤の入った軟膏の使用で消炎を測るが、窒息のリスクが高い場合は肉芽を切除する処置が必要になる。

カニューレの選択として、女性はID7mm、男性だとID7.5〜8mmのイメージ。

 

カニューレの交換は1週間を目安で行なっている。

準備する物

カニューレ

カフ圧計

サチュレーションモニター

シリンジ(カフ用)

キシロカインゼリー

ネックバンド

筋鉤(スタンバイ)

 

処置し易いように頭部を後屈して頸部を伸展させておく。

カニューレのカフに空気が入ることを予め確認しておく。

気管内に挿入する部分はなるべく触らないように。

モニターを主治医が確認できるように設置。

モニター下でカニューレを除去し、綿球で気切部を清拭の後、カニューレの先端や気切部にキシロカインゼリーを塗布して

挿入する。

 

 

カニューレの管理

最初はカフつきのカニューレを使う。

次はスピーチカニューレ、最後に開口部レティナとなり、レティナを取ったらステリテープや縫合により気管口を閉鎖する。

カニューレに痰が溜まって閉塞すると呼吸困難となるため、十分な加湿や人工鼻が求められる。

スピーチカニューレはカフつきのカニューレと比較して内径が狭いため、痰が多いと閉塞しやすい。

従って、カニューレの段階を挙げる目安としては、痰の粘性や量で勘定している。

また、気管前壁に腕頭動脈が横断しており(イメージしずらいけど)、カニューレがそこを持続的に圧迫すると穴が開いて(気管腕頭動脈瘻)、大出血する恐れがある。

開口部から痰を引くときに血液が引けてくる場合は要注意。

 

吸引時は吸引カテーテルを折り曲げて吸引を止めた状態で、気切部からカニューレを気管分岐部直前の位置(10〜12cmを目安)まで入れ、折り曲げを解放した状態で弧を描くように7〜10秒程度吸引しながらカテーテルを引いていく。

 

カフ圧を確認し、2〜3kPaを保つようにする。大凡耳たぶの弾力くらい。

 

レティナを使用する理由

チューブ抜去後も様子を見るために気管口を閉鎖したくないから。

当科ではスピーチカニューレ抜去していきなり気管口閉鎖はせずにレティナを装着しているのは、慎重に様子を見たいからなのかと。

他にもカニューレの内径を徐々に小さくしながら抜去したり、スピーチカニューレ抜去後にいきなり気管口閉鎖する方法もあるらしいが、その場合は上気道のファイバーで問題ないこと、カフを抜気すると上気道に空気がleakすること、循環が安定していることなどを確認する必要がある。