輸液の選択

輸液の選択

 

周術期に何を考えながら輸液の使用を検討するかを説明する。

 

そのためには、まず簡単に基礎知識が必要となる。

 

成人は体重の60%が水分で構成されている。

その水分も全てが血管内に居る訳ではなく、

血管内 細胞内 組織間 の3カ所に体液は分布している。

その内訳は

血管内:細胞内:組織間=40%:15%:5%(いずれも全身の体重比)=8:3:1


これは大事な前提知識で、体液の2/3は細胞内に分布している。

つまり、循環血液量が減少した時に、細胞内液が細胞外に移動して循環血液量を補うことができる。

 

 

輸液は血漿(晶質=電解質)成分の浸透圧(285mOsm/L)との関係で3種類に分類できる。

高張液

血漿浸透圧より高い浸透圧で調整された輸液のこと。

従って、細胞内の水分が細胞外へ漏出する。 

 

低張液

血漿浸透圧より低い浸透圧で調整された輸液のこと。

従って、細胞内に水分が入る。

つまり、血漿・組織間液・細胞内液全てに輸液が分布される。

 

等張液

血漿浸透圧と同じ浸透圧に調整された輸液のこと。

水の細胞内外間移動がない。

つまり、点滴した輸液は血漿と組織間液に分布される。

 

 

口腔外科で輸液を行う際の目的は電解質輸液である。

これにおいては低張電解質輸液と等張電解質輸液の2種類に大別できる。

 

低張電解質輸液

電解質の浸透圧が血漿の晶質浸透圧より低く設定されている。

実はブドウ糖を加えて浸透圧を等張にしているが、体内でブドウ糖代謝されたら水が生成されるし、

ブドウ糖は血管外に移動できないので、結局は低張になっている。

 

中でも維持液と呼ばれる、生理食塩水と5%ブドウ糖の配合をbaseとして輸液が有名で、その配合で1号から4号まで分類される。

 

1号は生食:ブドウ糖=1:1が目安で、4号にかけてブドウ糖の割合が多くなり、4号は生食:ブドウ糖=1:3が目安。

 

1号液

カリウムが含まれていないのが特徴。

カリウムは神経や筋肉の活動に重要な役割を果たし、特に高K血漿は心停止など致死的なので注意が必要。

腎機能が悪い人にKを過剰投与すると危険なため、腎機能の評価が出来ない場合に使用する場面が多いため、

開始液 と呼ばれている。

 

2号液

細胞内に多い電解質(K、Mg、HPO4)を多く含んでいるのが特徴。

低K血漿や、細胞内電解質が不足する脱水時に使用するため、

脱水補給液 と呼ばれている。

 

3号液

1日に必要な水分と電解質を含むように調整されているのが特徴。

従って、周術期に経口摂取が困難な患者の水分・電解質補給で用いられているため、

維持液 と呼ばれている。

 

4号液

電解質濃度が低く、水分の補給を目的としている。

腎機能が未熟な乳幼児や腎機能が低下している患者、術後早期の患者に用いるため、

術後回復液 と呼ばれる。

 

 

等張電解質輸液

投与した輸液は細胞内には流入せず、細胞外に分布する。

生理食塩水だけでなく、乳酸リンゲル液と酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液が有名である。

 

ちなみにリンゲルっていうのは等張な溶液を作る目的でいくつかの塩類を水に溶かすことを指しているだけなので、

あんま気にしなくていい。

 

乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液

これらの輸液には血漿電解質と類似させるためにNa、K、Ca、Clといった電解質は入っているが、重炭酸イオンはCaと反応して

不溶性の炭酸カルシウムが生じるため、代わりに、体内で代謝されると重炭酸イオンになる乳酸か酢酸を入れている。

だからアシドーシスの心配もいらない。

 

 

実際の使い方

口腔外科で輸液を使用する場面は多いが、バラエティはそんなにないだろう。

 

まずは術前の輸液

手術日の朝から禁水だったりするが、手術が2件目とかだと禁水時間が長くなる。

細胞外液(循環量)が減少するため、細胞外液の補充を意図した等張電解質輸液を使う。

当科だと酢酸リンゲルのソリューゲンFとかヴィーンDとかよく使っている。

 

あと多いのは手術による出血に対する補充。

手術による出血で失うのは細胞外液だし、サードスペースに水分が漏出するので血管内が脱水傾向になるため、まずは細胞外液の補給を意図した等張電解質輸液を使用して循環血液量を維持する。

その後は細胞内含め、全身に必要な電解質を供給するために低張電解質輸液の維持液に変更していく。

ただ当科では術直後から低張電解質輸液を使用している。

まあ低張電解質輸液でも細胞外液の補給できるしってことなんだろうか。