よく耳にする薬 抗凝固薬・抗血小板薬編

外来患者や入院患者さんは何かしらの薬を定時で飲んでいることが多いが、診察時に1つ1つの薬を検索する暇はない。

まずは、処置をする上で特に注意しなければならない抗凝固薬や抗血小板薬、骨吸収抑制剤の代表格を知っておくことが大事だが、

薬については知っていれば知っているほど損はない。

 

今回は、患者さんのお薬手帳を開くとよく見かける代表薬について、観血的処置を行う上で重要になる物を中心に説明する。

 

 

 

抗凝固薬

血液の凝固系を抑制することで、血栓の生成を防止する。

血液の遅い環境下だと凝固系が活性化しやすい(フィブリン血栓)。

心房細動や深部静脈血栓症(DVT)があると、心臓や深部静脈の血流が滞留しており、そこで生成されたフィブリン血栓が飛んで、脳梗塞(CI:cerebral infraction)や肺塞栓症(PE)を引き起こす可能性が高い。

そのような症例に対して抗凝固薬を服用している患者をよく見かける。

 

ワーファリン

ビタミンKを抑制して抗凝固作用をもたらす。

心房細動に対して使用する非常に有名な薬だが、抗凝固作用を一定に維持するのが難しく、投与量を調整するために定期的な採血が必要になる。また、ビタミンKを作用点にしているため、ビタミンKを多く含む納豆は控えるなど食事制限が生じてしまう。

他剤との相互作用も多い。

ただ安い。

 

NOAC

New Oral Anticoagulant 又は non-vitamin K antagonist oral anticoagulants

の略で、2011年から発売され出した新規経口抗凝固薬の総称のこと。

抗凝固作用が安定しているため、効果を確認するための定期的な採血管理が必要ない。

また、トロンビンやXa因子を作用点に持つため食事制限がない。

他の薬剤との相互作用も少ないためとにかく使いやすい。

薬価はかなり高いが、この薬を飲んでいる人はかなりみかける。

日本だと

リクシアナ
エリキュース
イグザレルト
プラザキサ

の4種類がある。

4種類間に大きな差はないらしく、口腔外科医はこれだけしってれば十分じゃないでしょうか。

 

 

抗血小板薬

血流が早い環境下では血小板が活性化しやすく、動脈硬化などによる動脈血管の障害があると、血小板血栓が生じる。

血小板の活性作用を抑制することで抗血栓作用をもたらす。

狭心症心筋梗塞に対し、血栓塞栓症予防のために使用するケースが多い。

 

 

バイアスピリン

COX-1阻害により、血小板凝集作用のあるTXA2を抑制するため、血栓塞栓症を予防する働きを持つ。

 

その他有名な物として

プラビックス(一般名:クロピトグレル)
プレタール(一般名:シロスタゾール)
パナルジン(一般名:チクロピジン)
エパデール(一般名:イコサペント酸エチル)
ペンサルチン(一般名:ジピリダモール)

が挙げられる。

 

口腔ケアの重要性

口腔は消化管の入口として一つの器官であり、全身の一臓器としての役割を持つ。

口腔ケアとは口腔ケア用品を用いて口腔内を清潔にすることで、口腔疾患だけでなく、全身疾患までの予防を目的としている。

 

口腔ケアを行うことで口腔内の細菌や汚染物質を除去できる。

歯周病菌は糖尿病や心内膜炎、敗血症、動脈硬化とも関連があるとされている。

また周術期においてはこれに限らず、口腔内の衛生状態を改善することで、口腔内細菌を原因とするSSI、外科侵襲や薬剤投与による免疫力低下に伴う病巣感染、誤嚥性肺炎、発熱、栄養障害、在院日数の削減、投薬や検査などの削減による医療コストの削減などに寄与できる。

 

全ての入院・外来患者に対して口腔ケアを行うことが理想であるが、その中でも特に口腔ケアを行う意義が強い疾患に限っては、別途で保険点数を請求することができるようになっている。

 

 

特に口腔ケアを行うべき疾患は

 

となっている。

 

 

頭頸部・消化管・呼吸器領域等の悪性腫瘍の手術

頭頸部悪性腫瘍の手術では創部が口腔内に近接しているため、SSIのリスクが高い。また、術後の摂食嚥下障害に合併する誤嚥性肺炎のリスクもみられる。化学療法、放射線療法を行うとほぼ全例で口腔粘膜炎が生じ、免疫低下による易感染性も認める。

胃より上部の消化管に生じた悪性腫瘍でもSSIのリスクは上がる。

口腔内細菌が誤嚥で呼吸器領域に流れ込む観点から呼吸器系の悪性腫瘍にも有効である。

頭頸部・上部消化管・呼吸器領域以外の悪性腫瘍疾患においても、周術期は投薬や侵襲に伴う免疫低下状態になり、口腔ケアを行うことで歯周病といった慢性炎症を抑制し、回復を早めて合併症が減少すると言われている。

 

心臓血管外科手術

なんといってもIE(感染性心内膜炎)。

免疫低下時に歯周疾患から口腔内細菌が血流に入り、心臓に到達してIEになる可能性がある。

 

 

人工股関節置換術等の整形外科手術

人工関節置換術が特に大事。

変形性関節症などの関節疾患に対し、損傷した関節を除去して金属などの人工関節に置換する手術のことで、95%以上が股関節と膝関節であり、国内で年間15万件以上行われている一般的な手術である。

よくTKA、THAと耳にするが、それぞれ人工膝関節置換術と人工股関節置換術のこと。

人工関節は通常の関節よりも感染(SSI 人工関節周囲に起きるものを特にPJIと呼ぶ)しやすく、感染すると再手術と長期間の抗菌薬療法が必要になり、なんとしても予防したい。

なので術中も宇宙服のような手術着を着用するなど周術期にとにかく感染に留意するが、術後長期経過後でも感染するため、術後も感染に注視しなければならない。

その点において、口腔衛生状態が悪いとリスクは小さいものの血行性に細菌が散布されて人工関節が感染する可能性があると言われており、中程度のエビデンスもあることから、周術期の口腔ケアが重要視されている。

 

 

臓器移植手術

臓器移植手術はとにかく侵襲が大きく、術前から多量の免疫抑制剤を使用する。

従って、口腔粘膜炎だけでなく、免疫不全に伴う口腔疾患の重症化や全身感染症のリスクが高い。

手術直後は生命予後に関わるため、そんな時にP急発や骨髄炎、蜂窩織炎なんて起こしたくないので、予め感染源となる疾患は処置を行い、粘膜炎や口腔疾患由来の重症感染症を予防する。

 

 

造血幹細胞移植術

悪性リンパ腫や多発性骨髄腫といった、化学療法だけでは難しい血液癌や免疫不全症に対し、根治目的で行う治療のこと。

予め自分またはドナーから造血幹細胞を採取し、移植術の前に化学療法や放射線療法で腫瘍細胞と免疫細胞を抑制させ、採取した造血幹細胞を点滴で投与する事で、正常な造血機能を回復することを期待する。

造血幹細胞を採取する方法は

骨髄移植

 腸骨の骨髄液から採取する方法

末梢血幹細胞移植

 通常は造血幹細胞は血液中にいないので、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を投与して造血幹細胞を末梢に流れ出し、血球成分分離装置を用いて造血幹細胞を採取する方法

臍帯血移植

 妊婦の分娩後に造血幹細胞が豊富に含まれている臍帯から造血幹細胞を採取する方法

 

がある。

やはり免疫抑制剤を多量に使うため、口腔粘膜炎や慢性炎症の重症化などのリスクがあり、口腔ケアが重要である。

 

脳卒中に対する手術

患者は片麻痺など生じており、摂食嚥下障害に伴う誤嚥性肺炎のリスクが高い。

 

プレート抜去術の術式

プレート抜去術は口腔外科の手術で日常的に行われている手術で、若手の口腔外科医が行うケースが散在されるが、比較的基本の手術であるためか、書籍などで術式について詳しく記載していない。

若手こそ術式を学ぶべきであり、そこに矛盾が見られる。

 

従って今回はプレート抜去術の術式について説明する。

 

大まかな流れとしては、

  • 切開
  • 剥離
  • スクリュー・プレートの抜去
  • 縫合

となる。

 

 

下顎プレート抜去術

下顎では開口器を使用する。

 

切開

切開線の設定

 切開線は以前の手術で切開した後の瘢痕をなぞるようにして設定することで、瘢痕組織を最小限に抑える。 ただ瘢痕上だと血流が悪くなるため、わざと少しずらすこともあるらしい。

 ただし、プレートを除去する上で以前の切開線があまりにも不適切であれば、適宜新たな切開線を加える。

 

※不適切な切開線とは:例えば切開線があまりにも頬側に寄っていると、縫合時の歯列(非剥離)側フラップが薄くなって縫合しづらくなり、十分な組織を針で拾えず、術後に創部が離開したり感染しやすくなる。

 

切開線の長さはプレート抜去をする上で必要な長さを考えて設定する。

切開線の長さが短いと十分に剥離できないので、プレートを明示することが困難になって沼る。

切開線が長いと、不要な侵襲が加わり、術後の患者本人の肉体的負担が増大するだけでなく、感染リスクも上昇する。

予めレントゲン写真やCTを確認し、切開する前にプレートの位置を触診して、イメージをすることが大事である。

また、麻酔をする時に骨膜までの距離を測っておくと切開がイメージ通りに進められる。

 

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切開

切開はプレート直上をめがけて切開する方法と、プレートより少し頭頂(上縁)側を目掛けて切開する方法がある。

プレート直上を目指して切開する方が安全だが、粘膜骨膜弁を綺麗に剥離するのが困難になる。

創部は以前手術した所で瘢痕だらけでどうせ綺麗に剥離できないけれど、僕はやっぱりプレート上縁を目掛けて切開し、プレート(下顎縁下)方向に向けて剥離を進めた方がいいと思う。

 

切開は2回に分けて行う。

1回目は下顎縁下方向に刃先を向けて軽く表層を切開し、2回目の切開で下顎骨に対して垂直になるように刃先を向け直して切開を加える。

こうすることで、歯列(非剥離)側のフラップに厚みを持たせる事ができ、縫合しやすくなる。

 

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15番メス?電気メス?

15番メスは切開跡が綺麗になるが、刃先がすぐダメになってしまうし、止血効果がない。

電気メスは切開でフラップを綺麗に分離でき(みかんを剥いてるようなイメージ)止血効果も得られるので視野が確保しやすいが、周囲の組織にダメージを与えてしまう。

それぞれメリットとデメリットがあるので、適宜使い分けることが重要。

電気メスで周囲の組織にダメージを与えても術後に大きな影響はないようだが、やっぱり僕は

電気メスによる周囲組織の挫滅は良くないと思うので、最初の粘膜の切開は必ず15番メスで切開し、深部の切開も基本は15番メスを使うが、刃先がダメになったり、15番メスではきれない時、出血のせいで視野が確保できない時は電気メスを使うようにしている。

 

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剥離

粘膜骨膜弁の剥離

メスで切開して骨膜まで明示できたら、骨膜剥離子を用いてプレートを目掛け、下顎縁下方向に向けて剥離を進めていく。骨膜剥離子はモルトやアッシュ5番など、その時に使いやすい骨膜剥離子を使用する。

 

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プレートの明示

プレートの上縁が認められたら、プレートの全貌を確認するために、プレートの近心端・遠心端方向へ剥離を進めて明示させる。

剥離が進まない場合は切開の範囲が不足しているため、切開を広げてプレートを丸見えにする。じゃないと沼る。

剥離する上でプレート近辺に不要な組織があれば、電気メスを用いて除去し、プレートを綺麗に露出させる。

プレートの全貌が見えるようになったら、それより下縁へ剥離する際は、先が鈍である粘膜剥離子に持ち替えて、下顎縁下へ滑っても傷つけないようにする。

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スクリュー・プレートの除去

ストレートやコントラのドライバーでスクリューを除去する。

プレートを除去する時は咬ませた状態にした方がスクリューが取れやすい。

まずは最もスクリューが取りやすい所から抜去していく。

ネジに対して平行になるようにスクリューをネジ穴に入れて、反時計回りでネジを緩めていく(インプラントでもなんでも時計回りだとネジが締まり、反時計回りでネジが緩む)。

スクリューがうまくネジ穴にかからない場合はスクリューを挿入する角度に問題があるので、色々な方向からスクリューをかけてみる。

特にコントラアングルはその傾向が強い。

剥離を綺麗にすることで、ネジを抜去する際にネジを落としてしまっても剥離範囲が守られていれば変な所に迷入しない。

スクリューが取れたらケリー鉗子でスクリューを把持し、シャーレに置く。

 

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縫合

 

縫合の基本前提

丸針をフラップに対して垂直に穿刺してなるべく深く骨膜下まで拾うことで、離開しづらく治りが良い創部になる。縫合は単純縫合で十分。

特に中央部分は離開しやすい上に離開させたくないので、しっかり骨膜下まで拾う事が大事。

 

縫う順番

まずは創部の中央付近をメルクマークとして縫って、頬側の遊離フラップと歯列側の非遊離フラップの大まかな位置決めを行う。その後に、遠心端または近心端に向けて縫っていくことで、dog-ears(縫い代のずれによる両端の盛り上がり)を防ぐ。

 

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上顎プレート抜去術

 基本的には下顎と変わらない。

上顎ではアングルワイダーを使用する。

切開

 Le Fortの切開線に準じて切開を行う。ただし、上唇小帯相当の正中部は切開しなくても十分に術式を遂行できることが多い。

 これも理想は2段階の切開で行う。

 まずは15番メスで上顎骨に対して頭頂側へ斜めに切開を加え、その後に電メスで上顎骨に対して垂直に切開を加える

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剥離

 剥離を進め、まずは梨状口のプレート下縁を明示する。

 次に、梨状口側縁を上方まで伸びているプレート部分の剥離を進める。

 あまり上方まで剥離すると眼窩下神経があるので剥離は最低限に留める。

 側頭骨寄りのプレートは梨状口のプレートを抜去してから進めることが多い。

 

 

スクリュー・プレートの抜去

 ストレートのドライバーでスクリューを抜去する。

 特に梨状口側縁まで上方に伸展しているスクリューを抜去するため、細長い金鉤でフラップを上方に牽引する。

 スクリューが取れたらケリー鉗子でスクリューを把持し、シャーレに置く。


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歯列側のフラップを巻き込まないために、粘膜剥離子で抑えると良い。

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縫合

 人によっては連続縫合を選択している。

 骨切り後で鼻の形態の変化を気にしている患者に対しては両側の鼻翼基部に糸をかけて鼻翼部を締め直す(その際は左右の切開線を繋げて剥離する必要があるか)

口腔外科でよく処方する薬(非鎮痛薬)

口腔外科でよく処方する薬(非鎮痛薬)

 

メチコバール

成分:メコバラミン

生体内補酵素ビタミンB12

ホモシステインからメチオニンを合成するメチオニン合成酵素補酵素として働き、メチル基転位反応に重要な役割を果たす。

ビタミンなので神経細胞内小器官へ移行しやすく、髄鞘の構成成分であるレシチンの合成を促進して神経繊維の髄鞘形成率を高めたり、デオキアイウリジンからチミジンへの合成系に関与して核酸・蛋白の合成を促進したり、変性神経の出現を抑制することで軸索再生を促進させる。

つまり、神経障害が出た患者さんにお守り程度でビタミン剤を処方して神経回復の促進を期待する。

500μg錠×3回(3錠分3)を数ヶ月単位で処方する。

骨切りやプレ抜、嚢胞や腫瘍摘出、抜歯で神経症状を呈したら数ヶ月から年単位で処方する。

 

 

リザベン

成分:トラニラスト

肥満細胞や各種炎症細胞からのケミカルメディエーター(ヒスタミン、ロイコトリエンetc)遊離を抑制する。

従ってアレルギー疾患に対して処方する事がメジャー。

だが同時に、サイトカインや活性酸素の産生・遊離抑制作用を有するため、ケロイドや肥厚性瘢痕由来繊維芽細胞のコラーゲン合成を抑制する。

ケロイドや肥厚性瘢痕治療薬としても使用することがあり、口腔外科ではこれを目的として使用している。

 

例えば口唇形成術を行った患者に対して瘢痕形成を抑えるためによく処方する。

輸液の選択

輸液の選択

 

周術期に何を考えながら輸液の使用を検討するかを説明する。

 

そのためには、まず簡単に基礎知識が必要となる。

 

成人は体重の60%が水分で構成されている。

その水分も全てが血管内に居る訳ではなく、

血管内 細胞内 組織間 の3カ所に体液は分布している。

その内訳は

血管内:細胞内:組織間=40%:15%:5%(いずれも全身の体重比)=8:3:1


これは大事な前提知識で、体液の2/3は細胞内に分布している。

つまり、循環血液量が減少した時に、細胞内液が細胞外に移動して循環血液量を補うことができる。

 

 

輸液は血漿(晶質=電解質)成分の浸透圧(285mOsm/L)との関係で3種類に分類できる。

高張液

血漿浸透圧より高い浸透圧で調整された輸液のこと。

従って、細胞内の水分が細胞外へ漏出する。 

 

低張液

血漿浸透圧より低い浸透圧で調整された輸液のこと。

従って、細胞内に水分が入る。

つまり、血漿・組織間液・細胞内液全てに輸液が分布される。

 

等張液

血漿浸透圧と同じ浸透圧に調整された輸液のこと。

水の細胞内外間移動がない。

つまり、点滴した輸液は血漿と組織間液に分布される。

 

 

口腔外科で輸液を行う際の目的は電解質輸液である。

これにおいては低張電解質輸液と等張電解質輸液の2種類に大別できる。

 

低張電解質輸液

電解質の浸透圧が血漿の晶質浸透圧より低く設定されている。

実はブドウ糖を加えて浸透圧を等張にしているが、体内でブドウ糖代謝されたら水が生成されるし、

ブドウ糖は血管外に移動できないので、結局は低張になっている。

 

中でも維持液と呼ばれる、生理食塩水と5%ブドウ糖の配合をbaseとして輸液が有名で、その配合で1号から4号まで分類される。

 

1号は生食:ブドウ糖=1:1が目安で、4号にかけてブドウ糖の割合が多くなり、4号は生食:ブドウ糖=1:3が目安。

 

1号液

カリウムが含まれていないのが特徴。

カリウムは神経や筋肉の活動に重要な役割を果たし、特に高K血漿は心停止など致死的なので注意が必要。

腎機能が悪い人にKを過剰投与すると危険なため、腎機能の評価が出来ない場合に使用する場面が多いため、

開始液 と呼ばれている。

 

2号液

細胞内に多い電解質(K、Mg、HPO4)を多く含んでいるのが特徴。

低K血漿や、細胞内電解質が不足する脱水時に使用するため、

脱水補給液 と呼ばれている。

 

3号液

1日に必要な水分と電解質を含むように調整されているのが特徴。

従って、周術期に経口摂取が困難な患者の水分・電解質補給で用いられているため、

維持液 と呼ばれている。

 

4号液

電解質濃度が低く、水分の補給を目的としている。

腎機能が未熟な乳幼児や腎機能が低下している患者、術後早期の患者に用いるため、

術後回復液 と呼ばれる。

 

 

等張電解質輸液

投与した輸液は細胞内には流入せず、細胞外に分布する。

生理食塩水だけでなく、乳酸リンゲル液と酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液が有名である。

 

ちなみにリンゲルっていうのは等張な溶液を作る目的でいくつかの塩類を水に溶かすことを指しているだけなので、

あんま気にしなくていい。

 

乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液

これらの輸液には血漿電解質と類似させるためにNa、K、Ca、Clといった電解質は入っているが、重炭酸イオンはCaと反応して

不溶性の炭酸カルシウムが生じるため、代わりに、体内で代謝されると重炭酸イオンになる乳酸か酢酸を入れている。

だからアシドーシスの心配もいらない。

 

 

実際の使い方

口腔外科で輸液を使用する場面は多いが、バラエティはそんなにないだろう。

 

まずは術前の輸液

手術日の朝から禁水だったりするが、手術が2件目とかだと禁水時間が長くなる。

細胞外液(循環量)が減少するため、細胞外液の補充を意図した等張電解質輸液を使う。

当科だと酢酸リンゲルのソリューゲンFとかヴィーンDとかよく使っている。

 

あと多いのは手術による出血に対する補充。

手術による出血で失うのは細胞外液だし、サードスペースに水分が漏出するので血管内が脱水傾向になるため、まずは細胞外液の補給を意図した等張電解質輸液を使用して循環血液量を維持する。

その後は細胞内含め、全身に必要な電解質を供給するために低張電解質輸液の維持液に変更していく。

ただ当科では術直後から低張電解質輸液を使用している。

まあ低張電解質輸液でも細胞外液の補給できるしってことなんだろうか。

 

輸液が必要なin量の計算方法

周術期に輸液補給を行う症例は多いが、歯学部では全く習わない話であるため、考えていく。

今回は輸液の計算方法について

周術期で患者さんに輸液補給をする時、どの位の量をどの位の速度で補給すればいいのか考える必要がある。

 

水分のin/outの原理を踏まえた正攻の計算方法は

Out量=尿量+汗・不感蒸泄量+大便の水分量

In量=代謝

より

1日の必要水分量=out量−In量

で示される。

 

 

不感蒸泄量は普段生活する上で体表から蒸発している水分量のこと

汗・不感蒸泄量は37℃の体温下で約15ml/kg/dと考えられている。

ちなみに、体温が1℃上昇する毎に100〜150ml/d増加する。

 

大便の水分量はカラカラにみえて100ml位あるらしい。

 

一方で、体がエネルギーを作る代謝の副産物で水が産出される。

解答系〜電子伝達系の反応式を見ると

C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O (+38ATP)

1日に必要なグルコースは150g程度であるので、約100ml程度の水が算出される。

他の代謝経路と合わせると、大凡300ml/dとなる。

 

以上を踏まえ、

1日の必要水分量=尿量+15*体重−200ml
体重が60kg、尿量が1000mlの成人男性の場合は

In=300ml

out=1000+900+100ml

1日必要量は1700mlとなる。

 

でもこの計算を毎回するのはちょっと面倒。

蒸発量や代謝量は個人差が激しい上に計算なんて出来ないし、健康な人であれば尿量で体液量をコントロールできるし。

 

なので、簡単な計算式はある。

 

まず、上記の式の200mlなんて誤差の範囲だし、個人差の範疇に含まれるから無視しちゃおうってことで

1日の必要水分量=尿量+15ml/kg/d

 

尿量を測るのも面倒だしもっと簡単にしようってした式が

1日の必要水分量=体重(kg)×25〜30(ml)

これは非常に簡単な計算法だが、これはあくまでも

既往がなく普通体型の成人

において近似できる。

体重60kgだと1750〜1800mlで、上の値と似ている。

ただあくまで簡単に変形した式なので、

小児だったり肥満、腎機能が悪い患者などには避けるべき。

 

 

 

 

 

 

 

口腔外科でよく使う含嗽薬

口腔外科で処方する含嗽薬はそんなに多くない。

 

 

抗菌作用

 

イソジン

口内炎や抜歯創、咽頭扁桃炎など口腔創傷の感染予防や消毒効果がある。

ヨウ素は17族元素で酸化力(電子を奪う力)が強いので、かなり強い殺菌力を持つ。

従って、イソジンは感染予防で処方することがある。

ただヨウ素甲状腺ホルモンの主原料であり、甲状腺に取り込まれるので、原理はよくわからないが、甲状腺機能異常の患者に処方すると甲状腺機能低下症を来たす恐れがあるため、添付文書でも慎重投与とされている。

 

 



 

ネオステグリン

陽イオン界面活性剤(逆性石鹸)であるベンゼトニウム塩化物が配合されており、一般細菌に対して広く有効である。

陽イオン界面活性剤は親水基としてN(主に第四級アンモニウム)を持ち、R-N +  を呈している。つまりアルカリ性

細菌の表面のタンパク質のCOOH基が塩基性下でCOO - になり、イオン結合でCOO -・N +-R を生じ、殺菌作用を来していると考えられている。

ベンゼトニウム塩化物は代表的な第四級アンモニウム塩であり、上記の理由から抗菌スペクトルが広く、抗菌作用も強い。

一方で、上記の機序の所以で、タンパク質や脂質の共存下では効果が減弱される。

 

イソジンは細菌だけでなくウイルスにも効くので、咽頭炎扁桃炎に効くのはイソジン

じゃあイソジンでいいんじゃないかって思うけど、それだけ菌交代現象が起きるってことだし、ネオステの方が有害性も低くて洗浄作用がある?(タンパク質を変性するから?)らしいので、口腔内の洗浄という観点ではネオステを処方する意義があるのかも。

 

 

抗炎症

 

アズノール

NSaidsのアズレンスルホン酸ナトリウムが配合されおり、口内炎咽頭炎、急性歯肉炎などに対して効果を持つ。それだけでなく、なんと創傷治癒効果もあるらしい(ハムスターに酢酸を飲ませて口内炎を作り、アズレンを使用させた実験系に基づく)。

つまり、RT後の粘膜炎に対する治癒促進効果も期待できるかもしれない。

炎症が進まなければ治癒も促進するって考えなんだろうか。

5滴程度を100ml(コップ半分)で薄めてうがいしてもらう。

 

ハチアズレ

ハチアズレはアズレンスルホン酸に加えて炭酸水素ナトリウム(重曹)も配合されている。よって、唾液の緩衝作用を補っており、サッパリ感が強くて、患者さんによっては使いやすいらしい。

 

つまり効用はほとんど変わらないんだろうか。

 

 

 

 

チョコラBB口内炎用ショットにもアズレンスルホン酸が少し含まれている。処方用と比べると配合量が少ない(20mg/100ml)ですが、むしろ安全に使えるわけですし、オススメです。他のチョコラBBはビタミン剤らしいのでこれが良い気がする。