歯科医師・口腔外科医が学ぶ救急学 Airway異常所見への介入

First SurveyであるABCDEにそれぞれ異常所見が見られた場合の対応について考える。

 

Aの異常所見

 会話が可能であれば気道閉塞はないと考えられるが、意識障害が見られる場合は舌根沈下や異物(吐物)貯留で気道閉塞を来たす場合がある。

 呼吸性喘鳴が聴こえたり、モニターを装着してSpO2が低下している場合は気道閉塞を疑い、対応が求められる。

 

異物除去・吸引

 気道に異物があって閉塞している場合は異物を除去しないと改善されないため、サクションで異物を除去・吸引する。

 

徒手的気道確保

 まずは下顎を徒手的に挙上させて気道を確保する。

頭部後屈顎先挙上法

 頭部を後屈させ、顎先を挙上する。頭部を動かすため、外傷患者には禁忌である。

下顎挙上法

 12時の方向から両手で顎角を持って上方に挙上する。

 

エアウェイ

徒手的気道確保でも困難であれば、エアウェイで気道確保する。

経口エアウェイ

舌根沈下を解消する目的で使用する。

 

 

  1. 徒手的気道確保を行う 

     気道確保を行いながら操作を進めないと、症状は更に増悪するし、エアウェイ挿入時に適切な操作を行えない

  2. 適切なサイズのエアウェイを選択 

     先端が舌根と咽頭後壁の間に留意され、舌根沈下が解消される長さ 

     体表上で考えると、口角から下顎角に至る長さのエアウェイ(主に3-5号)を選択する。

     短いと舌を圧迫し、長いと喉頭蓋を圧迫して、気道閉塞を増悪させる。

  3. エアウェイにキシロカインゼリーをまぶす
  4. エアウェイの先端を頭頂側になる方向で口腔内に挿入する。
  5. 先端が咽頭後壁に近づいたら90°回転させ、正しい位置に留置する。

   ※下顎挙上を止めると気道閉塞する恐れがあるので、エアウェイ留置後も下顎挙上は

    継続しなければならない  

 

経鼻エアウェイ

 舌根沈下で経口エアウェイが困難な場合に適応となる

 

 

  1.  徒手的気道確保を行う 

      気道確保を行いながら操作を進めないと、症状は更に増悪するし、エアウェイ挿入時に適切な操作を行えない 

  2.  適切なサイズのエアウェイを選択

      鼻から耳珠の長さを目安とした長さを選択する。

  3.  エアウェイにきしろカインゼリーを塗す
  4.  エアウェイの挿入
    エアウェイのカット面を鼻中隔側にし、顔面に垂直にしてエアウェイを挿入する   尖った面を鼻中隔側にすると鼻中隔を傷つける                  操作しやすい鼻(右利きなら右鼻)で行うと良い。
  5. 挿入できたらエアウェイが入り込まないように、安全ピン等を先端につける

 

挿管

エアウェイでも気道確保が困難であれば、気管挿管が必要になる。

 

準備する物

挿管チューブ(女は7~8mm,男は8~9mm)

 

 

スタイレット(挿管チューブの形状保持)

 

 

シリンジ

 

 

キシロカインゼリー

 

 

ビデオ喉頭鏡(3号)

 

 

マギル鉗子

 

 

聴診器

 

 

吸引

 

 

 

 

 

手順 
  1. 準備

     喉頭鏡のブレードをセットし、電気が点灯するか確認

     挿管チューブのカフが膨らむか、シリンジでエアを入れて確認 

     挿管チューブ内にスタイレットを挿入し、先端に突出させないギリギリの位置で固定

     チューブ先端にキシロカインゼリーを塗布  

     後頭部に枕を置いてスニッフィングポジションにする

     スタイレット(挿管チューブの形状保持)

     シリンジ

     

  2. 薬剤投与

     

     声かけをして鎮静を確認する。
  3. 喉頭展開 

     喉頭鏡を喉頭蓋谷に挿入し、気管口を明示する。

  4. 気管チューブ挿入

     左手で喉頭鏡を持ちながら右手で気管挿管チューブを入れる。

     挿管チューブを挿入したら位置がずれないようにしっかり持ち、助手の人が両手でスタイレットを抜き、空気を10ml程度入れてカフを膨らませる。

     

    スタイレット(挿管チューブの形状保持)

    シリンジ

     気管チューブが正しい位置にあるかを聴診器で確認

    心窩部:胃の泡沫音がないか あったら胃挿管なのですぐ抜去

    胸部・側胸部:左右で聴診して呼吸音に差がないか 

     視診で胸郭の上がり方に左右差がないか確認

     気管チューブ内に曇りがあるか確認 

 

歯科医師・口腔外科医が学ぶ急変患者の対応アプローチ 概論

 口腔外科に限らず日常生活においても、目の前の患者が急変する場面に遭遇する事がある。その時はBLSに準じた対応をして救急科の先生にpassする訳だが、救急科の先生はその後に何を考えながら対応しているのか?

 

 余りにも疾患の範囲が広すぎて内容の統一性が失われてしまうので、悪までも概論として、救急科で研修した経験を踏まえて説明していく。

 

救急科の特徴

 救急科の特徴として、患者が到着するまでに患者の背景や病状などが詳細に分からないにも関わらず、早急な診断と治療が求められる点である。

 

患者が救急科へ来るまでに

 急変した患者が院内/院外で発見されると、救急科へ連絡があり、搬送される。

その際にバイタル・主訴・簡単な外表所見は伝えられるが、詳細は不明なまま搬送となる。

その情報を元に、必要となる医療資源を考え、早急に対応できるよう準備しておく。

 

患者が救急科に来たら

ABCDE(First survey)

 まず最初の2~3秒で患者が現在どのような状態であるかを確認する。

僅かな時間で患者を見て聞いて触る。

これら必要な診察内容の頭文字を取ってABCDEと呼ばれている。

 

A:Apperance (見た目)

A:Airway (気道)ex.会話可能か 口腔内に異物貯留がないか  

B:breath (呼吸)ex.胸郭の挙上に左右差がないか 呼吸は努力性か

C:circulation (循環) ex.血圧は基準内か 脈は触れるか

D:dysfunction of CNS (中枢神経障害) ex.対光反射はあるか 意識障害はあるか

E:Exposure (体表) ex.外傷はないか 発熱はないか

 

ABCDEに異常所見あれば即ち生命維持に問題を来たす恐れがあるので、それに対して治療を行う。

例えば、Aについて気道閉塞が認められれば下顎挙上や挿管を行う。

BについてSpO2低下や努力性呼吸があれば、酸素投与や人工呼吸器の装着を行う。

Cについて血圧低下や脈が触れない様子があれば輸液負荷やエフェドリン投与を行う。

 

ポイント

・上から順に

上から順に治療していくことが重要である。

いくら酸素投与(Bに相当)や輸液負荷(Cに相当)を行なっても気道閉塞があれば生命維持は担保できない訳で、必ずAから順番に加療を続ける。特にABCを終えてからDEに進むことを心がける。

・何度も繰り返す

また、最初にABCDEに異常所見がないことを確認して診療を先に進めても、適宜元に戻ってABCDEが安定していることを留意することが重要である。

 

 ABCDEに問題がないことを確認すれば、とりあえず今すぐに死ぬことはないため、問診や追加の検査を行う。

 

OPQRST・SAMPLE

OPQRST,SAMPLEはいずれも病歴聴取で必要となる項目の頭文字を取ったものです。

 

O:onset(発症様式)

P:Pallative/Provocative(増悪・寛解因子)

Q:Quality/Quantity(症状の程度・質)

R:Region(症状の範囲)

S:Severity associated symptom(随伴症状)

T:Time cource(時間経過)

 

S:Symptom(主訴)

A:Allergy

M:Medication

P:Past medical history(既往歴)

L:Last meal(最終摂取)

E:event(現病歴)

 

その他診察・検査

 上記を踏まえ、疑われる疾患を挙げる。それらの疾患に対し、

可能性が高い疾患に対しては確定させる検査

可能性が低い疾患に対しては否定させる検査

を行う。

 

漠然としているのでここで具体例

数秒間の失神で救急科を受診した患者

失神は3種類

・心原性失神

・神経調節性失神(迷走神経反射)

・起立性低血圧

に分類される。

殆どは迷走神経反射か起立性低血圧であるが、心原性であれば今後死亡する可能性があるため、心原性でないことを否定することが重要である。

心原性でないことを示すには何を行えば良いのか?

まず、心原性失神であれば直前に動悸や胸痛を伴う事が多いので、それについて聴取する。家族歴や既往歴で心疾患がないかも大事。

ECG(心電図)や心エコーで不整脈(房室ブロック、心室頻拍など)や心拍異常の否定は必須であろう。

上記診察・検査を行って心原性が否定できたら一安心。

あとは仰臥位の患者を坐位まで起こして血圧を計り直そう。収縮期血圧が20mmHg以上低下したら起立性低血圧だろう。

 

こんな感じで患者の対応を進めていく。

 

 

 

 

病棟患者の転倒時に留意すること

転倒すると

病棟患者は

内的因子(加齢や原疾患に伴う平衡感覚・視力・筋力の低下など) や

外的因子(慣れない部屋・多くの医療器具など)

状況的因子(慌てて歩くなど)

によって、転倒リスクが高い。

 

こうした患者は転倒すると骨折や脳出血が生じる事があり、長期間の入院で身体機能が低下し、施設に収容となり、最終的には寝たきり・死亡する負のスパイラルを呈する。

 

つまり、転倒時に頻度が高く重篤化する恐れがあるものは骨折と脳出血であり、最低でもこの2疾患の対応知識が求められる。

 

もし病棟患者が転倒したら

VSとABCDE確認 OMI開始

病棟患者が転倒していたら、まずはVS(バイタルサイン)を測定します。

そして、AABCDEを確認しましょう。

 

AABCDEとは

生命維持のため早急に問題となる点がないかを評価するスケールのこと。

 

A:appearance    表情や様子

A:Airway               気道

B:breath        呼吸

C:circulation          循環

D:dysfunction of CNS   中枢神経症

E:exposure       体表、外傷 

の頭文字をとっています。

 

上から順番に確認します。

気道閉塞があれば極端な話ですが挿管が必要ですし、気道は問題なくても血圧が低ければ補液や昇圧剤の使用が必要になる、といった考え方です。

 

大袈裟に思えるかもしれませんが、例えば転倒の契機が単なるつまずきではなく、大動脈解離や心筋梗塞、意識消失の可能性も有る訳です。

大動脈解離や心筋梗塞は背部や胸部の疼痛を訴え、早急に対応しないと急変して死に直結しますから、きちんとABCDEでフィルターをかけた方が良いでしょう。

 

ABCDEに問題なければすぐに死ぬことはないと判断して次に進みます。

詳しくは別の回で。

 

OMI

O:酸素

M:モニター

I:静脈路確保

の頭文字をとっています。

静脈路確保についてですが、今後急変して早急に薬剤投与を行わなければならない時のために静脈路は確保しておいた方が良いです。

 

診察・検査

全身の診察を行い、疑われる疾患に対して検査を行います。

ここではABCDEで異常所見もない、つまり単なるつまづき転倒を仮定して説明します。

(激しい転倒であれば救急外傷の流れに準じてFASTなどやらないといけなかったりしますが、それは別の回で説明します。)

 

診察

まずは中枢神経症状がないかを診察します(ABCDEのDに該当しますが)

・意識レベル(JCS、GCS)の測定

 

・脳神経 

  Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅵ 

   瞳孔の左右差・対光反射の有無

   視野の欠損の有無

    手で片目を隠し、視野範囲の中央と上下左右4隅角に振動指ハートをして、見

    えているかを確認する

  Ⅴ 

   V1,V2,V3領域の左右をそれぞれ触り、知覚に左右差がないかを確認する

  Ⅶ

   額のしわ寄せ、閉眼、口唇突出を指示し、左右差がないかを確認する

  Ⅷ

   左右の耳元で指を鳴らし、聴力に左右差がないかを確認する

  Ⅸ・Ⅹ

   発生してもらい、カーテン兆候(軟口蓋運動の左右差)がないかを確認する

  Ⅺ

   胸鎖乳突筋と僧帽筋を触診し、左右差をみる

  Ⅻ

   舌を突出させ、偏位がないかを確認する

 

・四肢の障害

  Barre徴候

    両手を前方に伸ばし、掌を上に向け、10秒閉眼してもらう。

   片方の手が落ちてきたら麻痺が疑われる。

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  Mingazzini

    仰臥位で下肢を屈曲してもらい、維持してもらう。

   片方の足が下降したら麻痺が疑われる。

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・小脳の機能 

  指・鼻・指試験

    診察者の指を動かしながら、診察者の指と被験者の鼻を交互に触ってもらう。

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  回内・回外試験

    上肢を回内・回外してもらう。

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  踵膝試験

    検査する下肢を挙上させ、もう片方の足の膝に当て、踵まで滑らせる運動を4  

   回程度反復してもらう。

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上記の診察で脳神経障害が疑われた場合は転倒の頭部外傷に伴う脳出血脳梗塞の恐れがある。

 

 

次に、全身の診察をする。

1人が頭からつま先に向かって診察を進める。

頭部:頭部を触って痛い所がないかを聞く。

   頭部を一通り触ったら、グローブに血が付着していないかを確認する。

   頭皮を掻き分け、挫創や裂創がないかを確認する。

 

胸腹部:体表上の病変に加え、肋骨を1本ずつ触ったり背部を叩打して疼痛がないか

   を確認する

 

四肢:体表上の病変に加え、関節を屈曲伸展させ、可動域に制限がないかを確認する

   全ての骨を触り、疼痛がないかを確認する

 

検査

高齢者の転倒であれば頭部の単純CT撮影は許容される。生産年齢の転倒でも転倒

  の程度や意識喪失の有無を考慮し、単純CT撮影を行う。小児は余程の症状がない限

  り行わない。

   全身の診察で骨折などが疑われる疾患があれば、追加でX線撮影が求められる。

 

骨折が疑われたら

CTやX線画像より骨折が疑われる場合は骨折部位に準じた専門診療科に対診する。

転倒による骨折で多いのは

脊椎椎骨骨折(背骨):腰背部痛があると疑わしい。CTで診断可能。

大腿骨近位部骨折(股関節):激しい疼痛に加え、患部下肢が相対的に短くみえる。

            股関節正面X線やCT撮影で診断可能。

橈骨遠位端骨折(手首):手から着地すると疑われる。

          手関節X線の正面にてradical inclinationの減少

                     ulnar variance(橈骨短縮で尺骨が長く見える)

                                     手関節X線の側面にてPalmar tiltの変化

          が認められる。

上腕骨近位端骨折(肩):手や肩から着地すると疑われる。

          肩関節X線の正面

          肩関節X線の側面(スカプラY)

                                     時にCT を用いて診断する。

 

対診するにあたって、予め適切な画像検査と診察所見を取っておく必要があるため、最低限の知識が求められる。

 

脳出血が疑われたら

頭部単純CTにて

midline shift(脳の正中線の偏位)

左右非対称な高吸収域(脳出血部)

があれば脳出血が強く疑われる。

 

脳出血を起こした場合、受傷直後に脳神経症状や意識障害が生じるとは限らず、数時間かけて障害が露呈するケースが多い。

 

従って、受傷直後にCT撮影して脳出血が疑われたら、

・脳圧降下剤(マンニトール)で出血に伴う脳の浮腫を軽減する

・降圧剤(ニカルジピン)で降圧して出血を緩和する

・全身止血剤(アドナ・トランサミン)で止血を試みる

意識障害や脳神経障害がないか、常に声掛けや神経診察をする

を行いながら、3時間後に再度CT撮影し、高吸収域部(脳出血部)の拡大がないかを確認する。

 

病変の拡大がなく障害もみられない場合はCTと脳神経障害のfollowを行いながら経過観察し、病変に拡大があり障害がみられる場合は緊急手術になる場合が散在されるが、病変部位や患者の耐術性などにも依存するため、以降は脳神経外科にお願いする。

 

問題ない場合のfollowは

上記の流れで骨折や脳出血が疑われない場合は終わりかというと、そういう訳ではない。X線やCTでは判断できない微小疾患が潜在されるかもしれず、無いと断言できないからだ。

とはいえ骨折や脳出血が有るとも診断はできないので、症状がないかを確認することが重要となる。

 

脳出血の観点では、受傷後数日間の間に嘔吐や頭痛、麻痺などの症状が生じていないかの確認が必要。

骨折の観点では、受傷後に疼痛が残存・新出する箇所がないかの確認が必要となる。

 

受傷直後の診察で異常所見がなくても数日後に症状が顕性化することがあるため、数日間は頭の片隅に入れて留意する必要がある。

 

  

 

 

歯科医師・口腔外科医が学ぶ 心エコーについて

準備

 

心エコーを行う際は患者さんを左側臥位にして、Drが患者さんの右側に立ち、右手でプローブを持って操作する事が望ましい。

僕が研修した科では仰臥位で普通に撮影していたが、画像が上手く描出が出来ないことも良くあり、そういう場合は左側臥位にして撮影していた。

左側臥位にすると肺に含まれる空気の影響が減るから見やすくなるらしい。

 

撮影方向

赤(長軸・短軸像)→緑(四腔像)→青(下大静脈) の順で観るのが一般的だと思うが、順番に決まりはなさそう。

左室長軸像と左室短軸像が大事。

左室長軸像が正常であればかなりの確率で重症心疾患はexcludeでき、左室短軸像も正常であれば、その確率は更に高まる。

その後に、限局した壁運動異常を見逃さないためには、左室短軸像を心基部から心尖部までスキャンする。そこで異常像を発見したら、他断面からも確認する事が重要である。

四腔像では左右の心房・心室形態のバランスを観察できる。

下大静脈は直径を計測して基準値と比較することで右心系の循環うっ血や循環量減少の有無を鑑別できる。

 

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左室長軸像(胸骨左縁長軸断面像)

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第3・4肋間にプローブの突起(インデックスマーク)を右肩に向けることで、左図のようなおなじみの画像が観れる。

 

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描出のコツ

左室内径がもっと大きくなるように
心室中隔と大動脈前壁が同じ高さになるように

 

観察ポイント

心収縮の亢進/低下

どの壁も収縮しているか(Asynergy)

大動脈弁と僧帽弁はよく開いているか

大動脈弁と僧帽弁の閉鎖時に逸脱はないか

左心房(LA)、大動脈(AO)、右室(RV)の径が同じか

 

 

傍胸骨左縁短軸断層像

長軸断層像でのプローブを時計回りに90度回転させて描出させた像

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どの壁もしっかり動いているか(Asynergyがないか)、心室拡大がないか、弁の狭窄や閉鎖不全がないか、を確認する

大動脈弁レベル

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僧帽弁レベル

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乳頭筋レベル

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観察ポイント

左室と右室のサイズ(D-shape)  

駆出率(EF)

 

心室のサイズは正常なら左室>右室だが、右室が拡大・肥大すると心室中隔が左室側に湾曲し、左室の輪郭がDのようになる。

血栓塞栓症の典型的所見で、突然死に至る恐ろしい病気なので必ず見た方が良い。

 

駆出率とは左室に溜まった血液のうち、何%の血液を送り出せているか(ポンプ能力)の指標

簡単な計算方法として、(1-  左室収縮期容量/左室拡張末期容量)×100%

正常値:60〜80%だと

50%以下だと収縮不全、つまり心不全ということになる。

正確なEFを見るためにはCT・MRI・左室造影検査を用い、別の計算式で求める。

 

心尖レベル

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心尖部四腔断面像

 

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観察ポイント

心収縮時に腔が均一に収縮/筋が均一に肥厚するか

 

肝臓越しにIVC観測

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観察ポイント

IVC径

呼吸性変動の有無

 

下大静脈(IVC)は右房に入る2〜3cm尾側で径を計測する。

IVCは中心静脈圧(CVP)に比例しており、循環変動の容態を確認できる。

健康な人のIVC径は12mm〜21mmで、呼吸に伴う血液量の増減を反映することで最大径が呼吸と一緒に変動する(呼吸性変動)がみられるはず。

循環血流量が増大していたり右心不全があると末梢血がパンパンに膨らんでいるため、最大径が21mm以上になったり呼吸性変動が低下・消失する。逆に、脱水傾向の場合は末梢血がカラカラなのでIVC径が10mm以下・潰れて虚脱している像が伺える。

 

 

その他で心エコーから読み取れる事

LVDd(左室拡張末期径)、LDSs(収縮末期径)

 

左室内径短絡率(FS)

左室容積が拡張期から何%収縮したか

LVDd,LDSsを参考にして計算する

 

採血・ルート確保について

採血・ルート確保は患者さんのラボデータ確認や投薬など、全身管理をする上で必須の手技である。

 

 

 

準備する物

アルコール綿

 

 

駆血帯

 

ロールシーツ

 

止血テープ

 

ホルダーつき注射針(真空管採血)

 

 

針、シリンジ、分注管(シリンジ採血)

 

 

僕はシリンジ採血の方が馴染みがあるので、シリンジ採血について

 

簡単な流れ

 

準備

使用できない血管(シャント、人工血管、腋窩リンパ節郭清側)がないか、アルコールアレルギーがないか確認

予め針とシリンジを連結させ、シリンジ内の空気を押し出しておく

 

 

血管の選択

弾力があって太く真っ直ぐに走行している血管を選択し、駆血帯を巻いて血管を怒張させる

 

 

Point
  • 駆血帯を筋肉がある位置に40mmHg程度のきつさで巻く事で静脈だけを遮断できる
  • 駆血帯を長時間巻くと血液凝固しやすくなりデータ値が狂うため、駆血帯を巻く前に大まかでよいので血管を選択しておくと良い
  • 駆血帯を長時間巻いていると静脈が虚脱する事があるので、素早く
  • 駆血帯は採血部位を5cm上部に巻く。強く巻きすぎると動脈の流入も抑えられて怒張が不十分になるし、弱く巻いてしまうと静脈血が流出してしまうので、同様に血管の怒張が不十分となる。
  • 駆血帯を巻いても怒張しない場合は、駆血帯より末梢側に血管の分枝が有る場合があるので、駆血帯を末梢側に巻き直すと良い。
  • 肘窩部内側の尺側皮静脈と手関節部の橈骨皮静脈は神経が走行しているため避ける
  • 血管の弾性がない・細い場合は穿刺時に血管が逃げる可能性があるため、少し勢いをつけて穿刺させる
  • 逆血を一度は確認したが再度逆血が来なくなった場合は血管を穿通している可能性が高いため、針をゆっくり引いて、逆血がくる場所を探す
  • 穿刺しても逆血が来ない場合はギリギリまで針を戻し、再度狙って針を進める。

 

消毒

アルコール綿又はクロルヘキシジンで穿刺部周囲を消毒

 

穿刺

針先のベベルを上に向け、皮膚を末梢側に引っ張りながら穿刺する

逆血がきたら外筒を1番奥まで入れ込む

 

Point

血管が浅い場合は穿刺角度を小さく、深い場合は穿刺角度を気持ち大きくする。

針先が血管内に入るイメージをしながら、穿刺する針の長さを予想し、その分だけ末梢側より穿刺する。

 

採血

穿刺部がずれないように片手で固定しながらもう片方の手でシリンジを引き、静脈血を採取する

十分な量の血液を採取したら駆血帯を取り外し、シリンジを外す

シリンジを外したら針先を抜去し、テープ等で止血する

 

Point

強くシリンジを引っ張ると溶血してK値が高値になるなど生じてしまう

穿刺部を触ると不潔になるため、シリンジと皮膚の間に指をいれるように固定する

 

 

分注

分注ホルダーを用いてシリンジ採取した血液を採血スピッツ(採血管)に分注する。

採血スピッツはデータ毎に異なるので、欲しいデータが増えるほど必要なスピッツの数が増え、必要な採血量も多くなる。

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分注するスピッツにも順番がある

シリンジ採血は凝固しやすいため、絶対に凝固させたくない凝固(黒)スピッツから始め、凝固が許容される生化学(茶)を最後にすれば良い。

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採血上手くなろう

 

 

Q.翼状針(シリンジ、真空ホルダー)と直針シリンジ採血の違いは

翼状針は安全装置がついているので針刺しリスクが高く、神経損傷のリスクも下がると言われているので、基本的には直針より翼状針が推奨されるが、其々の特徴があるので、その特徴に応じて使いこなす事も必要である。

 

直針のシリンジ採血:低コスト

       ホルダー採血より処理時間が短くなる

翼状針のシリンジ採血:血管圧が弱くてホルダー採血では困難な場合やホルダー採血に対応し

           ていない採血管の場合でもシリンジ採血であれば可能になる

翼状針のホルダー採血:分注の手間が不要なので、多くの採血管を要する際に適する

           コストが高い

 

翼状針のホルダー採血が推奨されている

 

Q.採血禁忌の腕は

・乳房切除側(リンパ節郭清側):感染リスク高い

・炎症、感染している腕:感染増悪リスク高い

・シャント予定、中の腕:駆血帯や針刺しによってシャントに負担がかかり潰れて透析できなくなる

・麻痺側:血管外漏出が生じても疼痛がないため危険性が回避できない

 

Q.血管を怒張させる工夫は

・軽く手を握ってもらう

・温める

・末梢側から穿刺部に向けてマッサージする

・穿刺部位を人差し指と中指で叩く

 

手を強く握らせたりパンピング動作を行う行為はKが偽高値になるので避ける

 

 

Q.採血管の順番は

point

・キャリーオーバー(前の採血管の添加物を含んだ血液がその後の採血管に混入すること)を避

 けるために順番が決まっている

・初めの血には組織液が混入している

・凝固用の黒スピッツは規定量の採血が必要である

・シリンジ採血は時間が経つと凝固する

 

真空ホルダー採血の場合

1.生化:組織液混入を防止できるから

2.凝固:1番目に採取するとチューブ内に残る採血分だけ不足する

3.血沈

4.ヘパリン入り

5.EDTA入り(血算)

6解糖阻害剤入り

7.その他

 

シリンジ採血の場合

1.凝固:凝固の影響を最も受けるため一番最初にする

2.血沈

3.ヘパリン入り

4.EDTA入り(血算)

5.解糖阻害剤入り

6.その他

7.生化学

 

キャリーオーバーを避けるためには

・採血管の順番を順守する

・(ホルダー採血時)採血時に転倒混和させない

 →添加物を含んだ血液が後の採血管に混和するから

・静脈に穿刺後はホルダーを穿刺部より下にして、採血管も下向きにして混和を避ける

・混和はホルダーから採血管を抜去してから5-6回転倒混和させる

 

 

 

 

 

歯科医師・口腔外科医が学ぶ エコーの基本

エコーは超音波を振動に当て、返ってくる音波を受信することで心臓の動きを可視化させる検査のこと。

 

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エコーのメリットは何といっても非侵襲性と簡便さ、そして動的さ。

放射線を使用しないので被曝しないし、簡単に撮影できる。

また、画像を経時的に見る事が可能な点がなによりメリットだと感じた。

 

デメリットとして、エコーの解読は本当に難しいので、解剖学的構造が分かっていないと目的の画像まで到達できなかったりと、技量がとにかく必要となっている。

 

 

エコーの原理

前述の通り、エコー画像は生体内に超音波を発し、その反射の程度を可視化させた媒体である。

周波数が高いほど浅い部分の画質は向上するが、深部まで届かない。

周波数が低いと深部まで観察できるが、浅部の画質は低下する。

従って、目的の部位に合わせて周波数を設定する必要がある。

 

エコーの準備

 

エコーは3種類あり、腹部用のエコーと心臓用のエコーを頻用している。

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エコーの画像調整の因子として

gain;画像の明るさ

focus;観察したい部位の深さに適した周波数にする

Dynamic range;メリハリ

 

が挙げられる。

 

エコーには片側に突起がついており、左右がある。

突起がついた面を患者の左側・尾側(3時〜6時)の方向にしてあてることで、画面上でCTと同じ向きで描出する事ができる。

(画面上でマークが右側にくるので、右側が患者の左側・尾側になる。)

 

ゼリー

エコーのプローブと観察物の間に空気があると超音波が観察物に波及できないため、その隙間をゼリーで埋める必要がある。

エコーをすると患者さんの体表にエコーが付着して衣類を汚す事があるので、タオルなどで保護する。

また、エコー後は温かいタオルで患者さんとプローブに付着したゼリーを拭き取る必要がある。

 

 

エコーの位置

右利きの場合、プローブを右手で持ち、左手で本体を操作する。

従って、エコー本体とDrは患者さんの右側に立つ事が望ましい。

 

 

歯科医師・口腔外科医が学ぶ 造影CTと腎機能について

患者さんに造影CTを撮影したい時に腎機能が悪く、「撮影可能なのか?」と思い悩む場面が多い。

 

造影CTの禁忌について口腔外科医は理解しておかなければならないため、簡単に記載する。

 

造影CTを撮影する際に留意する点は

ヨード過敏症の既往(禁忌)

重篤甲状腺疾患(禁忌)

ビグアナイド系経口血糖降下剤(禁忌)

気管支喘息(原則禁忌)

腎障害(原則禁忌)

である。

 

ここで議論になるのが腎障害について

 

 

なぜ造影CTを使用してはいけないのか

 

そもそも、なぜ腎機能が低下した患者に造影剤を使用してはいけないのか一言で表すと、CIN(contrast-induced nephropathy: 造影剤腎症) = CI-AKI(contrast-induced acute kidney injury 急性腎障害)になるからである.

仮説としては

造影剤が直接的に尿細管細胞のアポトーシスや壊死などを引き起こす

血管作動性物質を阻害する事で糸球体の血流を悪化させ、活性酸素が生成されて腎障害をもたらす

血管収縮により腎臓内の酸素血流量が減少し、尿細管に毒性効果をもたらす

等々が謳われている。

 

従って、腎機能が低下した患者さんに造影剤を使用すると、それが契機となってAKI(急性腎障害)になる場合がある。

 

この場合、造影剤使用後の2〜4日後をピークにsCr値が高値になり、急性に腎機能が低下する。多くの場合は14日以内に造影剤使用前まで腎機能が回復するが、まれ(1〜25%、諸説あり)に腎不全が進行し続け、血液透析が必要となるまで悪化する事がある。

 

 

腎機能が低下した患者に造影剤は使用してはいけないのか

 

ではeGFRが低い場合は絶対に使用してはいけないのか、というとそういう訳ではない。

BPを使っている人でも抜歯しないといけない人は抜歯するように、造影剤を使用した方が良い場合は腎機能が低下していても使用する。

 

まず、最近のガイドラインだとeGFRが30ml/min以上であればAKIのリスクは低く、30ml/min以下であれば患者さんへの説明や適切な予防策が必要と記載されている。

だが最近の研究だと、そもそもeGFRが30ml/min以下でもリスクは低いという発表もあるが、結論は出ていないので保留で。

 

そもそも、患者に造影CTを使用して怖いのはCINだが、CINになる要因は腎機能の低下(CKD)だけでなく、DMや高齢、その他薬剤の使用などの有無が絡んでくる。

 

まとめると、

患者さんに造影剤を使用する場合は急性腎不全のリスクを引き起こす恐れがあり、その1つのリスク因子として腎機能の低下(eGFR<30ml/min)があるが、それ以外にもDM、高齢、内服薬、造影剤の種類などもあるため、上記のリスク因子によるAKI発症リスクと造影剤使用の必要性を照らし合わせて判断する必要がある

が正しい返答になる。

 

 

AKIになるリスク因子は

CKD,eGFR

DM

HT

メタボ

脱水(腎灌流量が低下)

内服薬

 

問題は内服薬だと思うが、

そもそも薬剤性腎症になる薬剤の1位は造影剤ではなく、

1位;NSAIDs

2位;抗腫瘍薬

3位;抗菌薬

で、4位が造影剤らしい

つまり、nsaidsやケモ、抗生物質の使用もリスク因子となる。

 

 

CINの予防法

リスクはあるも造影剤を使用したい場合はどうするかというと、

腎毒性のある内服薬を中止・変更

造影剤使用の6〜12時間前から12〜24時間後まで生理食塩水を1ml/kg/hで補液

低浸透圧非イオン性ヨード造影剤の使用

などが挙げられる。

 

簡単にできることとして、造影剤使用前後で其々500ml程度の生理食塩水をdivすることで造影剤を希釈したり、糸球体の環流量を増やして酸素化を改善させる方法が一般的である。

 

その他の原因に伴うAKIの時は造影剤を使用していいのか(余談)

これは本当に余談だが、脱水や外傷、手術に伴う腎臓の灌流量低下でAKIを呈している場合に造影剤を使用していいのか、という論点がある

 

つまり、脱水や手術などによる一時的な腎不全を呈している患者に造影剤を使用する場合は、関係なく造影剤を使用していいのか、腎機能が回復するまで待ったほうがいいのか、という話

 

結論から言うと、必要性が高いのであれば、予防策を講じた上で造影剤を使用しても大丈夫、ということらしい。